授乳期間が長い子はなぜむし歯が多くなるのか? 生活リズムが大切です


「母乳ではむし歯にならない」と信じている人は、お読みいただいてもおそらく何の役にも立たないと思います。
私は母乳もむし歯の原因になる、という前提でこの文章を書いています。

長期授乳を勧める人たちの一部には、母乳ではむし歯にならないことを言う根拠の一つとして、次のような例を示されることもあるようです。

「イヌイット(エスキモーと言うほうが分かりやすいかな)の子どもは、5歳まで母乳で育ってもむし歯になっていない。
だから授乳期間が長くなっても、母乳とむし歯は関係がない。」

しかしこれは彼らが、母乳以外に口にしたのは、アザラシの乾し肉だけの時代の話ですよ。
今や彼らが住んでいるところには、コンビニもでき食生活は大きく変わりました。
そして現在のイヌイットの子どものむし歯は、全米平均の何倍もの数になっているのをご存知でしょうか。
確かに4歳ごろまで母乳を飲んでいても、むし歯にならない子もいれば、1歳過ぎでもむし歯になる子もいます。
自分に都合のいい結果だけ紹介するのはどうかと思います。
条件が良ければ、4歳まで母乳をもらっていてもむし歯にはならないこともあれば、条件が悪いと1歳過ぎでもむし歯になってしまうこともあるのです。



「いつからお菓子をあげてもいいんですか」
  という質問をよく頂きます。
  
  その答は、お母さんが歯磨きを手伝ってあげるとき、泣かずにお利口に磨かせてくれるようになったとき、この時がお菓子を与え始めてもいい時期だと、理解してください。
それよりも早いと、歯の手入れもできないのに、お菓子による被害が、あっという間に歯にあらわれてしまいます。
市販の飲料についても、与え始める条件は同じです。

「酒は二十歳になってから、お菓子は泣かなくなってから」です。

さて、いま子育てをしているお母さん、子どもの歯をむし歯にしたくないとお考えのお母さん、これからお示しすることを正しく理解し、大切なお子さんをむし歯から守り、母乳育児を楽しんでください。

このグラフは一定の想定のもとに作成したものですが、理解しやすくするための模式図と考えてください。

【母乳だけの時期】グラフにはありません(矢印のみで示しています)
赤ちゃんが生まれて、母乳しか飲んでいないときは、むし歯はまずできません。
(ほとんどの子は、この時期まだ歯は生えていません)

①【主食のみの時期】グラフの左端(卒乳したなど、母乳をもらっていない子)
 生後6カ月を過ぎ補助食(離乳食と一般には言う)を口にするようになると、少しずつむし歯の危険が生じてきます。
しかし実際には、この時期(1歳前後の頃)は、むし歯を作る細菌が口の中に住み着きにくいため、むし歯の心配はまずありません。

②【主食と母乳の時期で、1歳未満の頃】グラフの左から二番目
 ①の主食のみの時期とほとんど同じで、母乳が歯に悪い影響を与えることはほとんどありません。
たとえ夜間に母乳をもらっていても、母乳によるわずかな被害は、1歳未満の頃までは夜間も唾液の流れがあり、歯を守ってくれるのです。

③【主食と母乳の時期だが、1歳を過ぎていると】グラフの中央  主食+母乳の影響 夜間授乳によるむし歯  奥歯も生えてくるので、むし歯菌が住み着きやすくなり、むし歯の危険が増してきます。
むし歯菌がいると、母乳さえも栄養にして歯を溶かし始めます。
さらに1歳未満の子との違いは、夜間の唾液の流れがぐっと少なくなり、歯を守る機能も落ちてきます。
特に夜間の授乳はその頻度にもよりますが、かなりのむし歯要因となり歯の裏側にむし歯が出来てきます。(右写真)
昼間に体をよく動かすようにし、母乳もしっかり十分与えるようにすると、夜間起きて来ることも少なくなります。

④【お菓子を食べ始めると】グラフ右から二番目 主食+お菓子や飲料の影響
お菓子や市販の飲料はむし歯菌の大好物なので、飲み食いを始めると急にむし歯が出来やすくなります。
もちろん主食の影響も存在しますので、その上に積み重ねて理解すると分かりやすいと思います。
たとえ母乳を続けていても、お菓子などを与えていなければ(③の時期)、むし歯の危険はむしろ低いのがグラフから分かると思います。

⑤【お菓子も母乳ももらっている子は】グラフ右端 主食+お菓子+母乳
お菓子や市販の飲料により、むし歯菌が活発に活動しているところに母乳があると、細菌は母乳を最大限有効利用します。
お菓子と母乳が組み合わさると、母乳は怪獣に変身すると思えばいいでしょう。
ここで一気に、母乳によるむし歯の被害が増してくるのです。
しかし、お菓子や市販の飲料を与えていなければ、母乳を続けていても、真ん中のグラフのレベルを維持することができます。
ポイントは、市販の菓子や飲料を与える時期を、できるだけ遅くすることと言えるでしょう。
出来れば3歳頃まで待ってほしいと、個人的には思っています。もちろん遅ければ遅いほうがいいのですが・・・・

これで母乳はむし歯の原因の一つであることを理解頂けましたか。
このことを踏まえているからこそ、私たち小児歯科の専門医がむし歯の出来た乳児に出会っても、すぐに母乳をやめさせることから始めないのです。
食生活を中心とした、生活のリズムを良くすることが、乳幼児のむし歯予防に大切なことです。

すぐに母乳をやめるよう指示を出す歯科医がおられれば、一度上のグラフを理解し再考していただきたいと思います。

「母乳はむし歯の原因でない」とか「母乳ではむし歯はできない」などと言って、母乳育児を推進しておられる、産科医、小児科医、歯科医、助産師、看護師、歯科衛生士その他の方がおられれば、是非お願いしたい。
どうか子どもを守る側に立ってください、と
母乳ではむし歯はできないという、あなたの何げない一言で、子どもも母親も被害者になってしまうことがあります。

子どもを守るのが我々小児に関わる医療人の任務です。みんなで協力して母も子も守っていきたいものです。

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